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京都家庭裁判所 平成2年(少)2578号 決定 1991年3月12日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

1  非行事実

少年は、

第一  平成2年7月4日午前2時30分ころ、奈良市○○町××××番地所在の○○理容店において、同店経営者A所有に係る現金2万5,000円位を窃取し

第二  平成2年7月21日午前0時30分ころ、奈良市○○町××××番地の×所在の○○商店において、同店経営者B所有に係る現金15万円ないし16万円位及び鍵5個を窃取し

第三  平成2年8月12日午前3時00分ころ、京都府相楽郡○○町○○×丁目××番地の×菓子小売「○○」店内において、C子所有に係る現金26万円位、商品券20枚(時価約1万円相当)及び煙草ギフト券約40枚(時価約1万7,600円相当)を窃取し

第四  平成2年9月2日午後11時40分ころ、奈良市○○町××××番地の×所在の○○商店において、同店経営者B所有に係る現金500円及び○○交通バスカード、バス回数券(額面10万円位相当)外煙草等56点(時価合計1万1,600円相当)を窃取し

第五  平成2年9月6日午後9時ころ、奈良市○○×丁目×番××号D方において、同人所有の現金5万3,000円位及び商品券3枚(時価1,500円相当)を窃取し

第六  平成3年1月15日午前0時00分ころ、奈良市○○町××××番地E方店舗内において、同人所有の現金2万7,500円位、貯金通帳1冊、月掛通帳5冊、普通預金通帳1冊及び簡易保険証書1通を窃取し

第七  平成3年1月17日午前3時00分ころ、京都府相楽郡○○町○○×丁目××番地の×菓子小売「○○」店内において、C子所有に係る現金5万3,000円、テレホンカード11枚(時価9,500円相当)、バスカード25枚(時価6万円)及び回数乗車券2228枚(時価47万2,400円相当)を窃取し

第八  平成3年1月26日午前0時00分ころ、京都市右京区○○町××番地株式会社○○1階事務所内においてF所有に係る現金約15万円及び貯金箱1個、並びにG子所有に係る現金約1,000円及び財布1個(時価約600円相当)を窃取し

第九  平成3年2月2日午前0時00分ころ、京都市右京区○○町××番地○○産業株式会社事務所において、H所有に係る現金1万5,800円位、財布2個(時価合計約1,500円相当)、宝くじ82枚及び○○紅茶キャンデー缶1個並びにI所有に係るテレホンカード1枚(時価500円相当)を窃取し

たものである。

2  適用法令

いずれも刑法235条

3  処分の理由

少年は、両親特に母との間の葛藤が激しく、小学校5年生の頃から家出を繰返し、中学生になった頃から長期間の家出をして四国や九州等を放浪し、その間フェリーの客室で置引きをするなどして、教護院「精華学園」に収容されたが、同教護院を逃走して同様の行為を重ねた。しかし両親の強い要望により同教護院を退院し、自宅に引取られ近くの中学に通学することとなったが、同様の行為はやまず、フェリー客室内での窃盗(置引き)事件で平成2年1月22日(中学3年時)当庁で京都保護観察所の保護観察に付された。

少年の母は、情緒的な、母親らしい暖かみに欠け、固い未熟な人柄の持主であり(知的には問題はないだけに、そのアンバランスが際立つように見える)、乳幼児期から少年を大きく包み込んで受入れることがなかったものと推察される。父は少年に対する監護の意欲は持っているものの、母の養育態度に疑問を抱かず、少年の教護院在院中に「少年のせいである」と割り切って、父、母、弟の3人でアメリカ旅行に行くなど(同様のことは他にも2回ある。)、少年の気持を「汲む」ことは不十分であった。他方学童期には、第一子である少年に対し両親共に過大な期待をかけ、学業において両親の期待に応え得ない少年を適切に指導できず、親子関係は悪化の一途を辿った。

このような家庭環境の下で、少年は神経質傾向が強く、些細なことを気にしやすく、感情は不安定で、外界の刺戟をひがみっぽく受けとめ、不平不満、被害感、不信感を抱くことが多い上、覇気や気力に乏しく、少しの困難でも乗り越えていくことができない性格になっていった。

少年は前記保護観察決定後間もなく中学を卒業したが、高校受験に失敗し、母から翌年の再受験を勧められたものの、進学意欲を失い、家出して友人宅を転々とした。一時寿司店で働いたこともあるが、結局家庭に落着けず、家出してポンコツ車の中や神社で寝泊まりするような生活を続ける中で(その間九州や四国にも行っている。)、本件非行事実第一ないし第五の事件を惹起したものである。

そこで、当裁判所としては、少年の非行の基盤には母子関係を中心とした親子関係の問題があり、その点の改善を図りつつ、可能な限り社会内で対人的信頼関係の基礎を培って少年の前記性格の矯正を図るのが相当と判断し、平成2年10月22日本件非行事実第一、第二、第四及び第五の事実により(第三の事実については、当時少年が申告せず、未発覚であった。)、当庁調査官の試験観察に付すとともに、京都市内で手広くうなぎ屋「○○」を営み非行少年の受託補導の経験の深い○○氏に補導を委託した。

ところが、少年は遅刻が多いものの年末年始の最多忙期にも頑張って就労を続け、期待を抱かせていた矢先の本年1月15日上司である料理長に対する不満から(少年が出雲から「そば」を土産に買って帰ったところ、「こんな手のかかる物買って来て。」と文句を言われたりした。)、委託先を飛び出し、担当調査官や両親にも連絡せず、同じく補導を委託されていて一緒に逃げ出したJという少年の家に泊まったり、東京に行ったりというような従前の生活に戻り、その間生活費及びパチンコ代稼ぎのため本件非行事実第六ないし第九の非行を行ったものである。

少年が委託先を逃走した理由は前記のように些細なものであり、少年の前記性格(感情が不安定で、外界の刺戟をひがみっぽく受けとめ、不平不満、被害感、不信感を抱くことが多い等)が余りにも根深く、一旦生活の基盤が崩れると侵入盗(その手口は狡猾、悪質である。)で生活費等を稼ぎ、「浮浪者」のような遊興中心の生活に陥る性癖の矯正は容易ならざるものがあると言わざるを得ない。

以上のような少年の性格、これまでの行状、環境の状況等に鑑みると、少年に対してはこの際相当の期間施設に収容して、自己の性格的弱点を認識させ、困難から逃げ出さずに最後まで物事に取組んでいけるような粘り強さを身に付けさせる必要(併わせて、家族にもその養護姿勢を徐々に反省し改善を図ることが求められるが、その働きかけにも相当の期間が必要)があり、中等少年院に収容して指導訓練を施すのを相当と認める。

よって少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。

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